最高裁判決から学ぶ自治会退会の連鎖の食い止め方

最高裁第三小法廷
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平成17年(2005年)、最高裁は自治会費等請求事件で、「権利能力のない社団である県営住宅の自治会の会員がいつでも当該自治会に対する一方的意思表示により退会することができる」と判示した。
その結果、

自治会は自由に退会できる

という誤解が生じた。そして自治会内で誰か一人退会すると、連鎖的に退会者が続出するという事態が生じている。残される会員の士気にも関わるので、連鎖的な反応は食い止めなければならない。
任意団体の自治会にそんなことはできるのか。じつはできる。そのヒントは問題の判決文の中にある。
まずは、最高裁まで争った自治会費等請求事件とは何だったのか、読み直そう。なお、最高裁の判決文全文は上記リンクから辿れる
自治会費等請求事件 最高裁判所判決文

自治会費等請求事件の概要

事件の舞台は埼玉県新座市の県営住宅。その県営住宅には権利能力のない社団として(強制加入団体ではない)自治会がある。その自治会の目的は、

  1. 会員相互の親ぼくを図ること
  2. 快適な環境の維持管理及び共同の利害に対処すること
  3. 会員相互の福祉・助け合いを行うこと

である。会員は当該県営住宅の入居者とし、会費は1世帯あたり

  • 共益費 2,700円/月
  • 自治会費 300円/月

である。会員の退会を制限する規定はない。

共益費は、街路灯、階段灯等の電気料金、屋外散水栓等の水道料金や排水施設の維持、エレベーターの保守、害虫駆除等に要する費用等、共用施設を維持するための費用である。
この県営住宅の管理業務を請け負っているのは、埼玉県から委託を受けた埼玉県住宅供給公社である。共益費を各入居者が個別に業者等に支払うのは困難なので、埼玉県住宅供給公社は、入居者に共益費は自治会に支払い、自治会が共益費を一括して業者に支払うよう指示している。

平成10年10月、ある住民がこの県営住宅に入居し、同時に自治会に入った。当初、この人は共益費を含む自治会費を規定通り払っていたが、自治会役員らの方針や考え方に不満を持ち、平成13年3月以降いっさい支払わなかった。そして平成13年5月、自治会を退会する旨を申入れた。

しかし自治会側は退会を認めず、平成13年3月分から平成15年2月分までの共益費合計6万4800円及び自治会費合計7200円の総合計7万2000円の支払いを求めて、さいたま地裁に提訴した。
さいたま地裁は平成16年(2004年)1月、退会の申し入れを無効とし、住民に共益費及び自治会費の支払いを命じた。
同年7月、控訴審でも、東京高裁は一審の判断を支持し、退会を認めなかった。そのため、住民は上告した。

原審と最高裁判決

原審の論理はこうだ。

被上告人(自治会)の組織の運営等が法秩序に著しく違反し,もって当該会員の個人としての権利を著しく侵害し,かつ,その違反状態を排除することを自律規範にゆだね難いなどの特段の事情がある場合に被上告人に対して退会を申し入れることは許され得るとしても,特定の思想,信条や個人的な感情から被上告人に対して退会を申し入れることは条理上許されないものというべきである。
したがって,本件退会の申入れは無効であり,上告人は,被上告人の請求に係る共益費及び自治会費の支払義務を免れないというべきである。

これに対して最高裁は、共益費と退会宣言する前に滞納した自治会費の支払義務は認めたものの、自治会費の支払義務はないとした。自治会は強制加入団体でなく、退会規定もないから、一方的な退会宣言で退会できるとし、平成13年5月以降は自治会員ではないと認定したからだ。

ではなぜ、共益費の支払い義務があるのか?
最高裁は3つ理由を挙げている。

  • (1) 共益費は本件団地内の共用施設を維持するための費用であるから。
  • (2) 本件団地の管理業務を行っている公社が、各入居者に共益費は自治会に支払い、自治会が共益費を一括して業者に支払うように指示しているから。
  • (3) 住人は入居当初、共益費を支払っていたのだから、そこに入居している限り自治会に対して共益費を支払うことを約したものということができるから。

(3)の、「入居当初支払っていた」ことがなぜ、「入居している限り自治会に対して共益費を支払うことを約したもの」になるのか、筆者にはわからない。
ただ、原審が住民の一方的な自治会退会を認めないことによって、共益費の支払義務を負わせたのに対して、最高裁は自治会を退会しようがどうしようが、共益費の支払義務はついて回ると認定したのは確かだ。

自治会費等請求裁判の二つのポイント

裁判所は、原審から最高裁判決まで一貫して、自治会員であるかどうか関係なく、住民には常に共益費の支払義務があるとした。

自治会費等請求裁判のポイントの一つがこれである。

もう一つ注目してほしいのは、「権利能力のない社団である県営住宅の自治会の会員がいつでも当該自治会に対する一方的意思表示により退会することができる」と言いつつも、じつはちっとも「自由」ではない点である。
実際、本件の住民は退会前に滞納していた自治会費2か月分と共益費24か月分と遅延損害金、おまけに裁判費用の99%の支払いを命じられている。つまり住民側は事実上全面的に敗訴したわけで、ただ「いつでも当該自治会に対する一方的意思表示により退会することができる」と花を持たせてもらっただけなのである。
しかも、この花もいつも通用するとは限らない。
最高裁はこう言っている。

被上告人(自治会)は,会員相互の親ぼくを図ること,快適な環境の維持管理及び共同の利害に対処すること,会員相互の福祉・助け合いを行うことを目的として設立された権利能力のない社団であり,いわゆる強制加入団体でもなく,その規約において会員の退会を制限する規定を設けていないのであるから,被上告人の会員は,いつでも被上告人に対する一方的意思表示により被上告人を退会することができると解するのが相当であり,本件退会の申入れは有効であるというべきである。

「一方的意思表示により」「退会することができる」のは、強制加入団体でなく、かつ、規約に「退会を制限する規定」がなかったからなのである。つまり

退会規定を設けよ

これが二つ目のポイントだ。

退会規定

ならば、退会規定として

会員は本件団地に住まう限り退会できない

とすればいいのか? そのような規定を設ければ、自治会は任意団体だから"公序良俗に反する"として規定自体を無効とされるだろう。

退会規定のポイントは、「退会させない」ことではなく、「一方的意思表示により退会できないようにすること」なのである。

最高裁は、住民には自治会を退会後も、共益費を負担する義務があるとしている。
この点を踏まえ、自治会費のうち、共益費にあたる部分を明確化し、退会後の共益費分の負担のしかたについてルールを定めよう。
退会規定は、退会後の住民に課せられるルールを双方が納得・確認したうえで、自治会が退会を承認するという手順にしよう。
つまり一方的意思表示では退会できず、決められた手順にしたがって、退会手続きをし、自治会から承認されて初めて退会が認められるという形にすれば、連鎖的な退会を阻止できる。

まとめ

2005年の自治会費等請求裁判で、最高裁は、自治会退会後も、住民は共益費を負担しつづけなければならないと判示した。この判決を踏まえて、自治会は、連鎖的な退会を阻止するために、退会後の共益費部分の負担のしかたについてルールを定め、退会後もルールが守られるよう、双方が確認したうえで、退会を承認するという退会規定を設けるべきである。

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