裁判を通して考える管理組合による自治会費徴収の妥当性

裁判を通して考える管理組合による自治会費徴収の妥当性
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管理組合が自治会費を管理費と合わせて徴収するマンションはめずらしくない。その方が集金業務を簡素化でき、徴収漏れを防げるので、自治会としては都合がいいのかもしれない。
しかし管理組合とは違い、自治会は任意団体なので、きちんと管理費と自治会費の区分をつけておかないとトラブルが起こりやすい。

本稿では、自治会費の滞納と返還に関する2つの裁判を通して、管理組合による自治会費徴収の妥当性を考える。

平成19年東京簡易裁判所 管理費等請求事件判決

平成19年8月7日 東京簡易裁判所の判断

事件の概略

東京都内のAマンションの管理組合は、毎月、地元町内会費100円を含む管理費500円を修繕積立金などの経費とともに徴収していた。ある区分所有者は同マンションに居住せず、賃貸していたため、町内会に加入していないとして、管理費を支払わなかった。管理組合はこの区分所有者に対して、管理費滞納分の支払いを求めて訴訟提起した。

争点

この裁判で争点となったのは、「原告が町内会費を管理組合費として請求をすることの是非」であった。

原告(管理組合側)の主張

  • 区分所有者がマンションに居住しなくても、賃借人は町内会の活動により、さまざまな恩恵を受けるのだから、町内会への加入は不可欠であり、十分合理性がある。

被告(区分所有者側)の主張

  • 被告は、マンションに居住していないから、町内会の会員に該当しない。
  • 町内会費は,住民が任意に支払いを委ねられているものであり,法的に支払いを強制されるべきものではない。
  • 町内会費の未払いに関して、マンション管理組合が裁判で訴求することはできない。

これに対して、東京簡易裁判所は次のように判断した。

町内会は,自治会とも言われ,一定地域に居住する住民等を会員として,会員相互の親睦を図り,会員福祉の増進に努力し,関係官公署各種団体との協力推進等を行うことを目的として設立された任意の団体であり,会員の自発的意思による活動を通して,会員相互の交流,ゴミ等のリサイクル活動及び当該地域の活性化等に多くの成果をもたらしているところである。そして,町内会は,法律により法人格を取得する方法もあるが,多くの場合,権利能力なき社団としての実態を有している。
町内会の目的・実態からすると,一定地域に居住していない者は入会する資格がないと解すべきではなく,一定地域に不動産を所有する個人等(企業を含む)であれば,その居住の有無を問わず,入会することができると解すべきである。そして,前記目的・実態からすると,町内会へ入会するかどうかは個人等の任意によるべきであり,一旦入会した個人等も,町内会の規約等において退会の制限を定める等の特段の事由がない限り,自由に退会の意思表示をすることができるものと解すべきである。
町内会費の徴収は、共有財産の管理に関する事項ではなく、区分所有法第3条の目的外の事項であるから、マンション管理組合において多数決で決定したり、規約等で定めても、その拘束力はないものと解すべきである。

下級裁裁判例 平成19年8月7日判決言渡東京簡易裁判所

東京簡裁の判断のポイントはこうだ。

  1. 町内会へ加入するかどうかは個人等の任意による
  2. いったん入会しても、町内会の規約に制限がない限り、自由に退会できる
  3. 町内会費徴収は、管理組合の本来の業務ではないので、たとえ、管理規約で会費徴収を決めたとしても効力はない

結局、判決では、区分所有者は管理費から自治会費の除く滞納分と延滞金の支払いを命じられた。

簡易裁判所は「管理組合が町内会費を管理組合費として請求をすることの是非」について、明言していないが、「拘束力がない」としている点で、「町内会費を管理組合費として請求をすること」に否定的であるといえる。

平成19年9月20日 東京高等裁判所の判断

同じころ、東京高等裁判所では、退会後の自治会費返還をめぐって、区分所有者が管理組合と自治会を相手取って、控訴審を提起していた。
東京高裁でも、区分所有者への自治会費返還要求が認められた。
以下東京高裁の判決文は、 弁護士平松英樹のマンション管理論からの孫引きである。

なお、付言するに、平成16年に改定された国土交通省作成の「マンション標準管理規約」において、管理組合の業務の1つとして「地域コミュニティにも配慮した居住者間のコミュニティ形成」が追加されたことからもうかがわれるように、分譲マンションにおいて、居住者間のコミュニティ形成は、実際上、良好な住環境の維持や、管理組合の業務の円滑な実施のためにも重要であるといえるところ、本件のように、被控訴人管理組合が管理する建物、敷地等の対象範囲と被控訴人自治会の自治会活動が行われる地域の範囲が一致しているという点において特殊性のある管理組合と自治会の関係があれば、管理組合が自治会にコミュニティ形成業務を委託し、委託した業務に見合う業務委託費を支払うことは区分所有法にも反しないものと解される。もっとも、前記説示したとおり、現在の被控訴人管理組合の被控訴人自治会に対する業務委託費の支払は、実質上自治会費の徴収代行に当たるといわざるを得ないから、本件において、被控訴人管理組合が被控訴人自治会に対し、本件マンションのコミュニティ形成業務を委託しようとするのであれば、強制加入の団体である被控訴人管理組合と任意加入の団体である被控訴人自治会という団体の性格の差異を踏まえて、改めて適切な業務委託関係の創設を検討するのが相当である。

弁護士平松英樹のマンション管理論 管理組合による自治会費(町内会費)の徴収について

東京高裁は東京簡裁とは違い、管理組合がコミュニティ形成業務を自治会に委託することは、区分所有法に反しないと判示した。その根拠は、国土交通省作成の「マンション標準管理規約」において、管理組合の業務の1つとして「地域コミュニティにも配慮した居住者間のコミュニティ形成」が追加されたからだった。
東京高裁は、事実上、「管理組合が自治会費の徴収を代行している」と認定したものの、その妥当性については何も述べていない。

東京高裁の判決を踏まえて、国土交通省は、「マンション標準管理規約」を見直し、「コミュニティ条項」を削除した。
その理由として、国交省は次のようにコメントしている。

従来、第十五号に定める管理組合の業務として、「地域コミュニティにも配慮した居住者間のコミュニティ形成」が掲げられていたが、「コミュニティ」という用語の概念のあいまいさから拡大解釈の懸念があり、とりわけ、管理組合と自治会、町内会等とを混同することにより、自治会的な活動への管理費の支出をめぐる意見対立やトラブル等が生じている実態もあった。一方、管理組合による従来の活動の中でいわゆるコミュニティ活動と称して行われていたもののうち、例えば、マンションやその周辺における美化や清掃、景観形成、防災・防犯活動、生活ルールの調整等で、その経費に見合ったマンションの資産価値の向上がもたらされる活動は、それが区分所有法第3条に定める管理組合の目的である「建物並びにその敷地及び附属施設の管理」の範囲内で行われる限りにおいて可能である。なお、これに該当しない活動であっても、管理組合の役員等である者が個人の資格で参画することは可能である。

コミュニティ条項の削除は大きな反発も招いたが、それによって「コミュニティ形成業務」に関する管理組合の自治会への業務委託はなくなり、管理組合はマンション管理、自治会はコミュニティ形成という役割分担が明確になった。これにより、自治会の自律性と存在意義が明確になったといえる。
なお、国交省も、自治会費又は町内会費等を管理費等と一体で徴収すること自体は否定していない。その代り、以下の4つ留意点を示している。

ア 自治会又は町内会等への加入を強制するものとならないようにすること。
イ 自治会又は町内会等への加入を希望しない者から自治会費又は町内会費等の徴収を行わないこと。
ウ 自治会費又は町内会費等を管理費とは区分経理すること。
エ 管理組合による自治会費又は町内会費等の代行徴収に係る負担について整理すること。

国土交通省 標準管理規約(単棟型)及び同コメント (PDF)

管理費と自治会費は峻別すべき

いずれの裁判も、また国交省も、管理費と自治会費は区別経理すべきとしている。
そうであれば、現実問題、管理組合が自治会費を一括で徴収するのは、逆に煩雑でリスクを伴うのではないか?
いくら自治会は任意であると事前に説明しても、いくら管理費と自治会費を明細で区分しても、管理組合が徴収する以上、新規購入者には管理費と自治会費の強制力の違いを正確に理解するのはむずかしいのではないだろうか?
また、途中で区分所有者が自治会を脱会すれば、管理組合はその自治会費分を差し引いた管理費を徴収しなければならない。逆に、自治会に入会する賃借人には、管理組合が自治会費のみ徴収するのだろうか? さらに、管理組合は徴収額のうち、自治会費分を正確に自治会へ振り分けなければならない -- そうした煩雑で責任を伴う業務をなぜ、管理組合にさせなければならないのだろうか?

自治会は独自に会費を徴収・管理し、自立しよう

自治会費の徴収・管理は、本来自治会の仕事である。会費徴収は自治会が会員ひとりひとりと向き合ういいチャンスだ。会費管理は自治会の組織強化につながる。
てはいえ、これまで、自治会費の徴収を管理組合が行ってきたマンションでは、急に自治会が徴収作業を行うと混乱が生じたり、脱会者が増えるかもしれない。
しかし混乱は徴収ルールがきちんと確立され、ルールに基づいて徴収が実施されれば収まる。脱会者は会費の徴収方法の変更に反対して脱会するのではなく、もともと脱会を希望する人たちなのだから、脱会はやむを得ないと考えるべきだ。

地震の活動期に入ったとされる日本で、コミュニティづくりや自治防災はきわめて重要で、それを担う自治会への社会の期待は高まっている。
これまで、管理組合の下請けのようだった自治会は、会費徴収業務を取り戻すことで、自立した強い組織に生まれ変わってほしい。

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